プロデューサーの背中
(アイドルマスターSS・千早編)

 765プロ所属のアイドル、如月千早がデビューをしてから数ヶ月が過ぎた。彼女を担当するプロデューサーは新人では
あったが極めて誠実な男だった。アイドル活動においても、プロデュース当初は歌にこだわり過ぎる傾向があった千早
との間に若干の対立はあったものの、その度に彼はしっかりと千早と向き合いながら活動を進めていった。千早もその
姿勢に次第に信頼を寄せ始め、歌以外の活動にも少しずつ意欲的に取り組むようになっていた。それに伴いアイドルラ
ンクも徐々に上がり始め、いよいよ順調にアイドルとして軌道に乗りだした、これはそんなある日の出来事である。

 その日の仕事は地方の遊園地の野外ステージでのミニライブと抽選会だった。決して大きな仕事ではなかったが、歌
の仕事いうことで千早の機嫌も良かった。彼女は歌える仕事であればどんな小さな仕事でも好んでこなした。それはま
るで歌だけを自分の拠り所としているかの様でもあった。

 その日は穏やかな好天に恵まれた休日で、テーブルと椅子が並べられた客席は多くの家族連れで埋まっていた。お
弁当を広げたりしながらの団欒は家族の幸せの姿であった。開演前のステージの袖からそんな客席の様子を覗いてい
た千早が寂しげな表情を浮かべたのを、プロデューサーは見逃さなかった。

 千早は家庭に恵まれていなかった。弟を事故で失って以来、家族はバラバラになってしまっている。それだけに千早は
生きる為に、そして何より自分が自分である為に、余計に歌へとのめり込んでいくのだった。

 この仕事は千早には少し酷だったかも知れない・・・。プロデューサーは千早に対して申し訳ない気持ちになった。しか
し彼のそんな気持ちをよそに、千早のステージは大成功といって良い出来だった。その後に行われた遊園地のグッズが
当たる抽選会でも抽選係とプレゼンターを明るく務め、イベントを盛り上げていた。

 「お疲れ様でした。プロデューサー。」
 「お疲れ様。千早、素晴らしいステージだったよ。」
 「ありがとうございます。」
 千早も今日の仕事の出来の良さを感じているらしく、充実した表情をしていた。
 「千早はこの後予定はあるかい?」
 プロデューサーが尋ねた。
 「この後は事務所に帰って明日の仕事のミーティングをするんですよね?その他に個人的な予定はありません。」
 千早は不思議そうな顔つきで答えた。
 「よし、じゃあ暫くここで遊んでから帰ろう。」
 プロデューサーは笑いながら言った。
 「ええっ、でも・・・。」
 千早は困った様な表情で返答出来ずにいた。
 「いいじゃないか。仕事も上手くいったし。それにここで遊ぶのも今後の仕事にプラスになるんだぞ。」
 「そんなものでしょうか?」
 千早はプロデューサーのこじ付け気味の理由に少しあきれた感じではあったが、嫌がる様子はなかった。

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