春香が黒く染まる日
(アイドルマスターSS・春香編)

 ある日のテレビ局。この日、ランクCのアイドル天海春香は彼女が準レギュラーを務めるティーンズ向けの情報番組の収
録に臨んでいた。
 収録は無事に終わり、春香はスタジオの隅で待つ彼女の担当プロデューサーの元へ駆け寄った。
 「プロデューサーさん!お仕事終わりました。」
 「おう!お疲れ様。今日の仕事は終わりだね。少し遅くなったから、家まで車で送るよ。早く着替えておいで。」
 「ありがとうございます!」
 答える春香の表情は明るかった。

 春香を乗せた車がテレビ局を離れる。車の中の春香の表情は暗かった。時折溜め息をついては窓を眺めている。
 「おいおい春香、もう元気を出せよ。」
 助手席の春香にプロデューサーは声を掛けた。
 「ええ、でも・・・。」
 春香の表情は冴えないままだ。
 「もうあんな記事のことは気にするなよ。」
 「あんな記事」とは、とある女性誌が企画した「私達がキライなあのオンナ」という記事だ。その女性アイドル部門の下位
に春香の名前が載ったのだ。もっともこの様な記事はある意味有名になった証のようなもので、以前は同じ事務所の三
浦あずさも載ったことがあった。しかし春香にとっては、初めての経験で、しかも書かれた内容が辛辣だった。
 「あの娘は本当は絶対性格が悪い。」
 「男ウケを狙い過ぎてあざとい。」
 こんな記事を偶然目にしてしまい、ヘコんでいたが、さらにタイミングの悪いことに学校の授業でネットを見ていた春香
のクラスメイトが春香の悪い評判が書かれたサイトを見せてしまった為にさらに落ち込むことになってしまった。

 「私、どうしたらいいんだろう・・・。」
 春香はまた溜め息をついた。
 「でも、この前のドラマでやったクラスメイトの役は評判が良かったじゃないか。」
 「それはそうですけど・・・。」
 春香の表情は暗いままだった。

 春香は歌が抜群に上手いわけでも、スタイルが良いわけでもないアイドルだった。だが、親しみやすく「クラスメイトに一
人いると嬉しい」タイプのアイドルであり、持ち前の明るさと前向きさで見る者に元気を与えるという点では誰にも負けない
ものを持っていた。そういう意味では春香は最もアイドルらしいアイドルといえた。

 「私、このままでいいんでしょうか?」
 春香がプロデューサーに聞く。
 「どうしたんだよ。急に。」
 プロデューサーは春香の真意をはかりかねていた。
 「私、やっとCランクに上がって、お仕事が増えたのは嬉しいんですけど、最近は似たようなシチュエーションで、似たよ
うなリアクションを求められることが多くなって・・・。このままじゃ飽きられちゃうんじゃないかと心配になってきちゃって・・
・。あ、すみません。プロデューサーさんは頑張ってお仕事を取ってきてくれてるのに・・・。」
 「いやいや、春香が真剣に仕事のことを考えてくれていて、俺は嬉しいよ。ただなぁ、現状はようやく春香のポジションが
決まってきたところだからなぁ・・・。仕事は少し偏るよ。」
 答えながら、プロデューサーはドキリとした。確かに、最近の春香は停滞気味だった。ファンの伸び方が鈍ってきている
のだ。Cランクといえば十分人気アイドルなのだが、そこに落ち着いてしまってはこの先は無い。むしろCランクをいかに走
り抜けるかがトップアイドルになる為の条件ともいえた。

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